税金が新しく創設されるとき、よく議論になる言葉があります。
「それは二重課税ではないのか。」
ニュースでも、このような議論を目にすることがあります。
では、仮に二重課税といえる場合、そのことだけで税金は違法になり、創設できないのでしょうか?
実は、答えはそれほど単純ではありません。
今回のブログでは、寝屋川市が検討している「空き家流通促進税」を題材に、税制上の「二重課税」とは何か、また、どのような場合に問題となるのかについて、税理士の視点から考えてみたいと思います。
なお、ここでいう二重課税には、法律上禁止される二重課税だけでなく、経済的・実質的に負担が重なって見える場合も含めて考えます。
二重課税とは何か
一般に二重課税とは、同じ所得、財産、取引などに対して、複数回にわたり税金が課される状態を指します。
ただし、「二重課税」という言葉には、法律上の一義的な定義があるわけではありません。
例えば、同じ所得について日本と外国の双方で所得税が課される国際的二重課税もあれば、法人が得た利益に法人税を課し、その利益を原資とする配当に株主段階で所得税を課す経済的二重課税もあります。ガソリンについて、揮発油税等を含んだ価格に消費税が課されることを「二重課税ではないか」と表現する議論もあります。
また、一つの不動産に固定資産税と都市計画税が課されるように、同じ財産を基礎として複数の税金が課されることもあります。
したがって、
同じものに複数の税金が課されているから、直ちに違法である
とはいえません。
問題となるのは、課税対象、課税目的、課税標準、納税義務者などがどの程度重なっているのか、その結果として納税者の負担が合理的な範囲を超えていないかという点です。
例えば、東京都の銀行税訴訟においても、この法律は、銀行に新しい法定外税をもう一つ課したものではありません。
当時の法人事業税は原則として所得を課税標準としていましたが、東京都が一定規模以上の銀行について、所得ではなく業務粗利益を課税標準とする外形標準課税へ変更しました。
したがって構造は、
- 通常の法人事業税+銀行税
ではなく、
- 通常の所得基準による法人事業税に代えて
- 銀行だけ業務粗利益基準で法人事業税を課す
というものです。ここを見ると二重課税のように見えます。
しかし、争点の中心は、二重課税というより、
- 地方税法上、所得以外の課税標準を採用できる要件を満たしていたか
- 銀行だけを対象とすることに合理性があるか
- 税負担が著しく均衡を失していないか
- 東京都の裁量権を逸脱していないか
論理を整理すれば、「二重であってもいいけど、負担は大きすぎないの?」と言い換えられます。
この考えで見ると、寝屋川市の空き家流通促進税についても、単純に「二重課税か、二重課税ではないか」と二者択一で考えるより、固定資産税との関係や合計負担を具体的に検討する論点が出てくるでしょう。
地方税法上の創設で、法定外普通税にはどのような歯止めがあるか
負担について、どのような法律上の税制制限があるでしょう?
地方自治体が課税できる税金の多くは、住民税、固定資産税、事業税など、地方税法にあらかじめ定められています。
一方、地方自治体には、地方税法に名称や内容が定められていない独自の税金を設ける仕組みもあります。これが「法定外税」です。
法定外税には、使途を特定しない「法定外普通税」と、特定の費用に充てる「法定外目的税」があります。
寝屋川市の空き家流通促進税は、地方税法第5条第3項に基づく法定外普通税として設計されています。
ただし、市が条例を制定すれば、それだけで直ちに課税できるわけではありません。
市町村が法定外普通税を新設する場合には、総務大臣との協議と同意が必要です。
地方税法第671条では、総務大臣は、次に掲げる事由のいずれかがある場合を除き、法定外普通税の新設に同意しなければならないとされています。
- 国税または他の地方税と課税標準を同じくし、かつ、住民の負担が著しく過重となること
- 地方団体間における物の流通に重大な障害を与えること
- 国の経済施策に照らして適当でないこと
つまり、国税や他の地方税と課税標準が重なることだけでは、直ちに不同意事由にはなりません。
条文上は、
課税標準を同じくし、かつ、住民の負担が著しく過重となること
が要件です。
このため、空き家流通促進税についても、固定資産税との重複だけでなく、両者を合計した負担が「著しく過重」といえるかが重要な論点になります。
京都市の非居住住宅利活用促進税はなぜ同意されたのか
寝屋川市の制度を考えるうえで、最も参考になるのが、京都市の「非居住住宅利活用促進税」です。
電話で問い合わせた際にも、言及がありました。
京都市の制度も、居住者のいない住宅の所有者に課す法定外普通税です。
空き家だけでなく、別荘やセカンドハウスなども対象となり得ます。
税額は、大きく次の二つから構成されます。
- 家屋価値割
- 立地床面積割
家屋価値割は、原則として家屋の固定資産評価額に0.7%を乗じて計算します。
固定資産税の標準税率は1.4%ですから、家屋価値割を加えると、家屋評価額に対する負担は単純計算で2.1%相当になります。
京都市の検討資料では、かつて固定資産税に2.1%の制限税率が設けられていたことを踏まえ、この水準を負担の検討材料としています。
すなわち、
- 固定資産税の標準税率:1.4%
- 非居住住宅利活用促進税の家屋価値割:0.7%
- 合計:2.1%
という関係です。
もちろん、過去に固定資産税の制限税率が2.1%であったからといって、現在の追加課税が当然に正当化されるわけではありません。
しかし、京都市は、制度の政策目的、課税対象、免税点、課税免除、徴収猶予などを含めて負担水準を説明し、2023年3月に総務大臣の同意を得ています。
課税開始は2030年度の予定です。
この事実から分かるのは、
固定資産税と同じ住宅価値を基礎として追加の税金を課す制度であっても、法定外普通税として認められることがある
ということです。
一方で、京都市の制度が総務大臣の同意を受けたことは、同種の制度であれば、どのような設計でも問題がないことを意味しません。
課税対象、課税標準、税率、免除制度、合計負担などは、自治体ごとに個別に審査されます。
寝屋川市案では何が論点になるのか
寝屋川市の空き家流通促進税は、空き家を市場に流通させるよう所有者の行動変容を促す「政策課税」または「誘因課税」として構想されています。
課税対象は、現に人が居住していない住宅です。
ただし、事業に使用しているもの、賃借人を募集しているもの、販売中のもの、所有者や居住者の死亡によって空き家となったものなどについては、一定の課税免除が設けられています。
税額は、次の二つの合計として設計されています。
- 家屋割
- 家屋立地割
特徴的なのは、家屋割の課税標準が「家屋の固定資産評価額」ではなく、その家屋に係る固定資産税額とされている点です。
当初公表された条例素案では、固定資産税額の50%を家屋割として課す設計でした。パブリックコメントでも、この50%という税率が過度な負担ではないかとの意見が示されています。
固定資産税の標準税率1.4%を前提とすれば、
固定資産評価額 × 1.4% × 50%
=固定資産評価額 × 0.7%
となります。
これは、京都市の家屋価値割0.7%とほぼ同じ負担水準です。
一方、寝屋川市の審議会では、税率を30%から40%程度とすることが妥当との検討がなされ、最終的には35%とする方向が示されています。
35%であれば、評価額に対する家屋割相当額は、標準税率を前提に、
1.4%×35%=0.49%
となります。
固定資産税と合わせると、家屋部分の負担は、単純計算で評価額の1.89%相当です。
この水準は、京都市の2.1%相当よりは低くなります。
その意味では、寝屋川市が当初の50%案から税率を引き下げたことは、政策効果だけでなく、固定資産税と合わせた納税者の負担も考慮し、税制上で認められる範囲を比較的慎重に設計したと評価できます。
もっとも、家屋割だけで結論を出すことはできません。
寝屋川市の税額には、土地に係る固定資産税額を基礎として計算する家屋立地割も加算されます。そのため、家屋割と家屋立地割を合計した実際の負担額を確認しなければ、「著しく過重」かどうかを評価できません。
また、固定資産税と空き家流通促進税は、形式上は異なる税目です。
固定資産税は、土地や家屋などの固定資産の保有に着目して広く課される税金です。
これに対して、空き家流通促進税は、空き家を市場に流通させることを促す政策的・誘因的な税金として位置付けられています。
したがって、市が両者を「性格の異なる税目」と整理することには、一定の理由があります。
しかし、名称や政策目的が異なるだけで、課税の重複に関する問題がすべて解消するわけではありません。
空き家流通促進税は、
- 同じ家屋
- 同じ所有者
- 同じ賦課期日
- 同じ固定資産税額または固定資産評価を基礎とする数値
を用いて、固定資産税に追加して課されます。
特に家屋割は「固定資産税額の何%」という形で計算されるため、経済的には固定資産税の割増しに近い性格を持っています。
そのため、地方税法第671条との関係では、税目の性格が異なるという説明だけでなく、固定資産税、都市計画税、家屋割、家屋立地割を合計した負担がどの程度になるかを示すことが重要です。
寝屋川市への確認
2026年7月、寝屋川市の担当課に電話で制度の考え方を確認しました。
担当者からは、概ね次の説明を受けました。
- 固定資産税と空き家流通促進税は、性格の異なる税目として検討している
- 地方税法第671条との関係について市内部や審議会で検討しており、今後、総務大臣との協議・同意手続を進める
- 税率については、当初の50%案から、審議会の答申を踏まえて30%から40%の範囲で検討した
- 京都市の制度についても、課税対象や税額などを参考にしている
一方、地方税法第671条との具体的な法的整理や総務省との協議内容については、詳細を説明することはできないとの回答でした。
審議会には、大学教授のほか、税理士、弁護士、司法書士なども参加しています。したがって、寝屋川市が独断で決めているわけではなく、外部の専門家の意見も参照しています。
ただし、審議会の一部が非公開とされていることもあり、どのような法律上の論点が検討され、どのような理由から「著しく過重ではない」と判断されたのかは、公表資料から必ずしも明確には分かりません。
私の考察
税目が異なり、「固定資産税と空き家流通促進税は、性格の異なる税目として検討している」という意見がありつつも、慎重に判断する必要があるのだと考えます。税金の対象というのは、形のないものに課税することが多く、当初異なるものと判断しても、その論拠がはっきりしません。
判断者によっては、性格が類似する税目として扱われることもあるでしょう。
寝屋川市の家屋割は、固定資産税額そのものを課税標準としています。実質的には固定資産税の割増しに近いという見方は否定できません。
固定資産税を納めたうえで、その固定資産税額を基準として、さらに一定割合を納める
結果として、類似する課税であると評価された場合にも、合計負担が過重にならないよう配慮した設計と見ることができます。
また、法定外普通税については、総務大臣との協議と同意という事前審査の仕組みも設けられています。
京都市の非居住住宅利活用促進税がすでに総務大臣の同意を得ていることからも、非居住住宅に対する追加課税で認められる税率範囲の一例を総務省が示しているとも読めます。同様の政策目的を持つ制度を検討する際の重要な先例になります。もちろん、0.7%が一般的な許容上限として確定したわけではなく、寝屋川市の制度については個別に審査されます。
また、課税への批判として、相続手続が完了していない、共有者間で意見がまとまらない、接道や再建築の問題がある、修繕費用が高額であるなど、所有者が売却・賃貸を希望しても、市場に流通させることが難しい物件もあります。
このような物件に対して追加課税を行っても、所有者の行動変容につながらず、単に税負担だけが増える可能性があります。
したがって、制度の妥当性を判断するには、二重課税かどうかだけでなく、少なくとも次の点を見る必要があります。
- 所有者が現実に空き家を流通させられる状況にあるか
- 売却・賃貸が困難な事情に対する免除・猶予制度が十分か
- 課税によって実際に空き家の市場流通が進むか
- 課税以外の支援策と適切に組み合わされているか
なお、このあたりは、あまり手厚くしすぎると徴税事務負担だけが増えてしまいかねないので、バランスが難しいです。
「二重課税」という言葉には、税制を否定する強い響きがあります。
しかし、税制上は、課税が重なっているという事実だけで結論を出すことはできません。
重要なのは、既存の税金と何が重なり、何が異なるのか、そして合計した負担に合理性があるかを具体的に検討することです。
寝屋川市の空き家流通促進税は、今後、総務大臣との協議・同意を経て、2029年度からの課税開始が見込まれています。
財源が足りない市町村は多いはずですから、これらの例は今後でも参考にされていくはずです。
